「自宅内の安全」を確認して室内での転倒やケガを防ぎましょう-その2-

これは、自宅内での転倒を防ぐことを学ぶために開発した模型です。↓

台所、居間、寝室、トイレ、浴室、階段、玄関を模型で再現しています。

  • さて、自宅の中で転倒しやすい場所と理由を考えてみてください。 実用新案登録3148203号
  • 答え↓
  • ①台所
  •  床にマットを敷いていることが多いと思います。マットの裏に滑り止めがないとめくれたマットの端に躓きやすくなります。また、買い物袋を床に置いたままにすると、躓きやすいですね。
  • ②居間
  •  こたつの掛物が広がっていると、躓きのもとになります。テレビほか電気コードが床の通り道に出ているとこれも躓きのもとですので、壁に沿わせます。コードカバーというものもあり、これを使うと廊下と壁の境目にコードが止められます。
  • ③寝室
  •  鏡やハンガー掛け、家具の配置は安全ですか? 入口は広く空けましょう。布団もたたみましょう。
  • ④トイレ
  •  このトイレは和式です。高齢者には様式トイレが安全でしょう。
  • ⑤浴室
  •  浴室に段差があれば、すのこを敷くことで、脱衣所と同じ高さにできます。浴槽に入るとき・出るときの手すりが必要です。L字の手すりが良いでしょう。浴室の床がぬめっていると滑りやすくなりますので、防カビ対策も肝心です。浴室の床には何も置かず、椅子を用意しましょう。
  • ⑥階段
  •  階段にはしっかり握れる手すりをつけましょう。階段を降りるとき、電気の向きによって影ができないようにします。
  • ⑦玄関
  •  靴の脱ぎ履きのときに、一瞬片足立ちになりますので、バランスを崩しやすくなります。手すりを設置したり、腰かけられる椅子などがあると高齢には安全です。玄関での転倒は、後ろに転倒すると腰の骨折、前に転倒すると顔面や頭部を打撲することがあります。
  • 自宅の中の転倒の危険を少しでも減らして安全に暮らしましょう。

「自宅内の安全」を確認して室内での転倒やケガを防ぎましょう-チェックリスト付き-

高齢者の転倒発生の頻度は一年間に20~30%と、若い世代と比較して高いと言えます。(20歳位の世代の転倒発生は一年間に1%程度です。)

当研究室からの研究成果に基づく情報をお届けします。「看護ネット」でも公開しています。

  1. なぜ高齢者の転倒は予防が必要なのでしょうか?

①転倒が原因で、けがや骨折する頻度が高い

②転倒が原因となり、入院治療が必要となることがある

③転倒直後には打撲しただけと思っていても、数時間、数日後に症状が現れて重篤化することがある

④骨折してしまい、外科的治療を行った場合、元のように生活行動が自立するまでにリハビリテーションを続ける必要がある。

⑤転倒後に家に閉じこもりがちとなり、下肢筋力の低下が生じて寝たきりへとつながる負の循環に陥りやすい

⑥「転倒恐怖症」と呼ばれる転倒がきっかけで外出することが怖い、外に出たくないという気持ちに陥りやすい

2.自宅の内と外のどちらの転倒発生が多いか?

筆者らの東京都中央区内の調査では、自宅内と外での転倒発生は、約半々でした。自宅の中も外も同じように注意することが必要です。

3. 高齢者に安全な住まいとは、

①部屋や廊下など移動が安全

②明るさがある

③冬季などでは部屋や浴室、トイレに温度差が少ないこと

④収納物が、無理なく取り出せる

などです。
部屋の移動の時には、廊下などの通り道に段差などの障壁はないほうが移動しやすいといえますが、マンションなどでは段差解消は難しい場合もあります。

出入リロや廊下の段差をなくし、十分な幅をとることはもちろん、照明の明るさや、浴室の温度差の解消も安全の点から必要です。
歩いたり、立ったり、座ったりする動作が安定した姿勢で行えるように、手すりや腰掛け、背もたれなどを適切な位置にあると良いでしょう。

4. 高齢者にとつてより安全な住まいを実現するためのポイント
ではまず、下の家はどこに問題があるか考えてください。

場所別にポイントを説明します。

1. 玄関の外

  • 1)玄関先に段差があり、歩行しにくい時には、スロープ等を設置し、段差を解消しましょう。手すりをつけて、つかまれるようにすると歩きやすくなります。
  • 2)玄関前のステップがすべりやすい時には、雨・雪を避けるひさしをつけましょう。
  • 3)庭先に砂利・飛び石等ですべりやすい時には、玄関戸から道路までの段差、飛び石、砂利を取り除くようにしましょう。

2. 玄関の中

  • 1)玄関の上がりかまちが床から高すぎる時には、踏み台。手すりをつけてみましょう。さらに補助照明を設置すると、足元が明るくなり、履物の着脱がしやすくなります。
  • 2)玄関マットが床に固定されていない時には、マットは床に固定しましょう。マットの下にすべり止めのシートを敷くことも効果があります。マットの縁がめくり上がらない材質を選びましょう。
  • 3)履物の着脱時にふらつく時には、椅子を設置して腰掛けて着脱できるようにしましょう。その際に必要であれば、握ることができる手すりをつけるとよいです。

3. 居間(リビング)の安全対策と転倒予防

高齢者が日常生活の多くの時間を過ごす居間(リビング寝室での転倒は、敷居のような小さな段差、カーベツトの端の めくれ、電源コード、床に置かれた雑誌・新聞などの障害物によって起こります。床に物を置かないようにして、日常の何気ない生活の場の整理・整頓を心がけましょう。

  • 1.雑誌や衣類などは足もとに置かず、まめに片づける習慣をつけましょう。
  • 2.小さい床マットやヘリがめくれているマット、座布団、布団類もへりにつまずきやすいため注意が必要です。
  • 3.電気コードは壁に寄せて固定し、通り道をすっきりさせましょう。
  • 4.ちゃぶ台やテーブルなどの家具は安定したものを使いましょう。
  • 5.ベッド周りには十分なスペースを確保しましょう。
  • 6.敷居などの数センチの小さな段差もつまずきやすいので、すりつけ板を設置するとよいでしょう。
  • 7.これらは、同居しているご家族の協力も必要です。

4. 廊下の安全対策と転倒予防

廊下は、トイレに往復するなど生活する上で必ず使用する場所ですが、荷物、新聞などの障害物やすべりやすいマット、ワックスがけをした床、脱げ易いスリッパ、夜間の照明不足などにより転倒につながる場所です。

  • 1.夜間は十分な照明をつけましょう。特に足もとを照らす照明をつけましょう。
  • 2.荷物、古新聞などの障害物を置かないようにしましょう。
  • 3.手すりをつけましょう。

5. 階段の安全対策と転倒予防

高齢者が使用する階段は勾配が緩やかなほうがよいでしょう。一般的な階段は40度ですが、30度ぐらいが望ましいといえます。勾配が激しく、昇り降りが大変な場合は1階に生活場所を変更をしたほうがよいでしょう。

  • 1.階段の縁に色つきのテープを貼るなど段差が見えやすい工夫をしましょう。
  • 2.階段は下りのほうが転倒しやすいので、手すりをつける際、片方にしかつけられない場合は下りに利き手でつかまれるように設置しましょう。
  • 3.階段を下りるとき、影ができないように、足もと灯をつけましょう。

6. 浴室の安全対策と転倒予防

浴室は、身体の清潔を保つだけではなく、リラックスして一日の疲れを癒したり、意欲回復には大切なものです。高齢者が安全に入浴するためには、洗い場、浴槽、脱衣室をすべりにくくする工夫が必要です。また、洗い場と浴槽の段差を少なくすることも大切です。

脱衣室

  • 1)脱衣所はすべりやすいため、バランスを崩しても握ることができる手すりを設置しましょう。床の材質をすべりにくいものにするとよいでしょう。
  • 2)衣服の着脱時に片足立ちになってふらつくことがあります。椅子を置き、腰掛けてゆっくり清脱するとよいでしょう。
  • 3)浴室と脱衣所の段差がある時には、手すりを設置します。洗い場にスノコを敷き詰めて段差を取り除くこともできますし、すりつけ板などを取りつけてみるとよいでしょう。
  • 4)出入日や脱衣宅の扉は転倒時に危険なため、ガラス製でないほうがよいでしょう。

浴室

  • 1)浴槽と洗い場の床面の段差がある時には、浴槽を半埋め込み式に改修しましよう。
    浴槽が据え置き式の時には、スノコを敷くこともできます。浴槽の出入り口には、動作に合ったL字型の手すりをつけると安心です。
  • 2)浴槽からこち上がりにくい時には、浴槽の側面に手すりをつけるとよいでしよう。
    また半埋め込み式の浴槽の場合には、洗い場の床から浴槽の縁まで35~ 45cmヘ調整すると立位になりやすく、またぎやすくなります。
  • 3)浴槽内にスムーズに入りにくい時には、浴槽横に腰掛けのスペースやベンチ式の入浴台、シャワーチェアーを置けるスペースをつくるとよいでしょう。
  • 4)蛇口やシャワーの高さがあっていない時にはシャワーチェアーや腰掛台にあったシャワーや蛇口の高さに調節しましよう。
  • 5)洗い場がすべりやすい時には、すべりにくく、水分が乾きやすい床材にかえましょう。

7. トイレの安全対策と転倒予防

加齢に伴い、排尿回数が増え、トイレの使用頻度や使用時間も増えます。トイレまでの廊下は安全か、トイレの照明は明るいか、入り口に段差はないか、寝室に近いか確認しましょう。

  • 1.便器に腰を下ろす、立ち上がる時に安定してつかまるために、縦手すりをつけると動作が安定します(下図参照)。
  • 2トイレの出入り口に段差がある場合などは、安定してつかまって出入りの動作を行うための縦手すりがあると良いでしょう。
  • 3出入り口から便器まで移動する場合は、転倒しないためにつかまって移動する横手すりがあると良いでしょう。
  • 4.安定して使器に座っているために、横手すりがあると良いでしょう。

和式トイレを洋式トイレに変えることは大掛かりな工事を行わなくても可能です。
視力や暗順応(明るい所から急に暗い所へ行った時の日の調節力)の低ドにより、夜間、暗い廊下から急に明るいトイレヘ人ると目が慣れるまで見えにくいことがあります。徐々に明るくなる蛍光灯もありますので利用するとよいでしょう。冬場など室温の急激な変化は高齢者には負担となり、トイレで倒れる原因となりますので、トイレの温度を保てるようにしましょう。

8. 安全対策チェック表

ご自宅について下記の項目をチェックし、1つでも該当項目があれば、安全対策を行う必要があります。

1.収納の位置と場所

  • 戸棚が高い位置にあり、手が届かない
  • 戸棚が低すぎるところにあり、屈まないと物が取り出せない
  • 台所に十分な収納場所がない

2.室内の散らかり

  • たとえ一時的であつても、物や新聞、本などが床の上に置いてある
  • 電気コードが室内や通り道の床に出ている
  • 家具や物があるために、歩くときに避けて歩く必要がある場所がある

3. 小さい敷物・マット

  • 床や廊下、玄関にしっかりと固定されていない小さい敷物。マットがある
  • 小さい敷物・マットは足で押すと動く
  • 浴室にすべり止めがついていない小さい敷物・マットがある
  • 浴室の小さい敷物。マットは足で押すと動く

4.照明

  • 台所で調理する場所の上に十分な照明がない/暗い
  • 浴室に十分な照明がない/暗い
  • 寝室に十分な照明がない/暗い
  • 廊下を歩くと影ができる/暗い
  • 階段を下りるとき、影ができる/暗い
  • 照明のスイッチの位置が使いにくい

5.移動

  • 部屋、廊下、玄関などに3センチ以上の段差がある
  • 椅子やソフアーからの立ち上がりや座ることが困難
  • 部屋を横切るときに身体を支えるために家具につかまる

6.寝室

  • ベッドの端に座った時に足がつかない
  • ベッドに柵がついていない

7.浴室・トイレ

  • 浴槽の表面がすべりやすい
  • 浴室の床がすべりやすい
  • 浴室に手すりがない
  • トイレに手すりがない

8.高いところのものをとる場合の手段

  • 手の届かないところの物を取るときに、椅子の上に上がる
  • 踏み台がぐらついている

9.浴室・トイレの手すり

  • 入浴やシヤワーの時に手すりにつかまらないと不安定である
  • トイレに座る、立ち上がる時に手すりにつかまらないと不安定である

10.階段

  • 階段の勾配が急である
  • 階段に手すりがない

11.履物

  • 室内で脱げやすいスリッパを履いている

(環境危険スケール(North」dge et a1 1995)に加筆)

作成 聖路加国際大学大学院老年看護学・教授 亀井智子